母親は三つの親の役割を果たすことになる。産みの親、育ての親、教育の親を演じ分けなければならない。

産みの親は産んで家の中でよちよち歩きできるまで育てる。
育ての親はよちよち歩きできるようになった子の手を引いて旅に出る。だらだら坂を峠へと向かって導く。産みの親は里の我が家の軒先からよちよち歩きのその後ろ姿を見送る。

峠まで上りついたら育ての親は待っていた教育の親にわが子をゆだねる。里の産みの親がわが子の姿を見送れるのはここまで。わが子の姿は見えなくなる。
峠の先は下り坂。健脚に育った子は先を下っていく。教育の親は後ろからついていく。道に外れたときだけ口を出す。

山を越え谷を越え、若者に育った子はやがて山の頂上の城にたどりつく。もう教育の親の姿はどこにも見えない。
若者は城主に目通りを願い出る。若者は申し出る「父上、この城を私に明け渡してください」と。

HMU 達弥西心